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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)47号 判決

千葉県松戸市馬橋二五六〇番地

原告

市沢敦子

右訴訟代理人弁護士

高橋治雄

千葉県松戸市大字小根本字久保五三番三

被告

松戸税務署長

永島與三郎

右指定代理人

中島尚志

中野昌治

斉藤幸雄

松本庄蔵

右当事者間の裁決更正処分等取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一、請求の趣旨

1  被告が、原告の昭和四三年分所得税について、昭和四五年一一月一七日付でした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一、原告の請求原因

1  原告は、農業等を営んでいるものであるが、昭和四四年三月三日、被告に対し、昭和四三年分所得税について、総所得金額(不動産所得及び農業所得)を四七五、七九九円、所得税額を三二、〇〇〇円として確定申告をした。

ところで原告は、昭和四三年一一月二二日、訴外鈴木利に対し、別紙物件目録(一)記載の各土地(以下本件譲渡資産という。)を譲渡価額合計二二、一七六、〇〇〇円で譲渡していたのであるが、右確定申告に際しては、租税特別措置法(昭和四四年法律第一五号による改正前のもの。以下同じ。)三八条の六第三項の規定に基づき、譲渡資産の譲渡の日の属する年の翌年中に買換資産を取得する見込みであることについての承認申請をし、譲渡所得がないものとして前記申告をしたものである。

そして、原告は、昭和四四年一月二八日から同年五月一二日までの間に、別紙物件目録(二)記載の各土地(以下本件買換資産という。)を取得し、同年一二月二二日、租税特別措置法三八条の七第二項第一号の規定に基づく精算として、総所得金額に算入される譲渡所得の金額六七五、〇二六円の不足額を加算して総所得金額を一、一五〇、八二五円、所得税額を一五二、三〇〇円とする修正申告をしたところ、被告は、昭和四五年一一月一七日付をもつて総所得金額を一一、四一二、八六九円、所得税額を四、七五九、五〇〇円とする更正処分及び過少申告加算税二三〇、三〇〇円の賦課決定処分をした。

2  しかしながら、右課税処分は、租税特別措置法三八条の六第三項の適用による本件買換資産の取得価額の控除を認めずに譲渡所得額を更正したものであるが、右規定の適用を認めなかつたのは違法である。

よつて原告は被告に対し、右課税処分の取消しを求める。

二、請求原因に対する被告の認否

請求原因1及び同2のうち本件課税処分において租税特別措置法三八条の六第三項の規定の適用を認めなかつたことは認めるが、右が違法であるとの主張は争う。

三、被告の主張

本件課税処分において、租税特別措置法三八条の六第三項の適用を認めなかつた理由は次のとおりである。

本件譲渡資産についての譲渡所得に租税特別措置法三八条の六第三項の規定が適用されるためには、譲渡資産については、個人が昭和三八年一月一日から昭和四四年一二月三一日までに譲渡した資産で、当該個人の事業の用に供しているものであること、また買換資産については、当該譲渡の日の属する年の一二月三一日(ただし、同条三項の承認を受けたときは翌年中)までに取得した資産で、当該取得の日から一年以内に当該個人の事業の用に供することが、それぞれ要件とされている。

しかるに、本件譲渡資産は、もと田であつたものであるが、前記譲渡の当時は、近隣住家の汚水が流入するままに放置されていて、原告の事業の用には、供されていない状態であり、また、本件買換資産も、原告の肩書住居から極めて遠隔の地にあつて、自ら耕作することは至難であり、原告の事業の用に供されていなかつたから、原告の本件譲渡資産についての譲渡所得には租税特別措置法三八条の六第三項の規定が適用されないものとして、譲渡所得額を更正したのである。

四、被告の主張に対する原告の認否及び反論

被告の主張のうち、本件譲渡資産及び買換資産が、租税特別措置法三八条の六第三項適用の要件を具備しない状態にあつたとの事実は否認する。

本件譲渡資産たる土地は、元来農地であり、原告が従前から耕作してきたものであつたが、本件譲渡の数年前ころから近隣が開発されて周囲に住宅が建つようになつたため、農耕環境に適さなくなり、農耕も困難となつていたので、原告は右土地での農耕をあきらめ、他に適当な農地を求めようとして、本件譲渡資産の譲渡及び本件買換資産の取得をしたのである。すなわち、原告は本件譲渡資産たる土地を譲渡の直前まで耕作していたのであり、地目の登記も譲渡直前まで田とされていたものを、譲渡に際して池沼に変更したものであつて、本件譲渡資産は、農業を営む原告の事業の用に供されていたものということができる。

また、原告は、本件買換資産たるすべての土地について前記取得の日から一年以内に農耕を開始した。すなわち、本件買換資産は原告の肩書住居から比較的遠隔の地に所在しているが、原告は家族とともに自らその耕作に従事するほか、主として訴外太田和雄を専従者として雇い、同人方の作業場を使用して右土地を耕作させているのであつて、原告の事業の用に供されているということができるものである。

従つて、本件譲渡所得には、租税特別措置法三八条の六第三項の規定が適用されるべきである。

第三証拠

一、原告

1  甲第一号証

2  証人太田和雄

3  乙第一ないし第三号証、第六号証の一ないし四の成立は認める。その余の乙号各証の成立は不知。

二、被告

1  乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし六、第六号証の一ないし四

2  証人平林忠雄

3  甲第一号証の成立は認める。

理由

一  請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件譲渡所得について租税特別措置法三八条の六第三項の規定が適用されるか否かについて判断する。

本件譲渡資産及び買換資産について、租税特別措置法三八条の六第三項の規定の適用を受けるためには、被告主張の要件を具備しなければならないことは、規定の文言上明らかである。

ところで、前記争いのない事実と成立に争いのない乙第一、第二号証、第六号証の一、二、同号証の四、証人平林忠雄の証言を総合すれば、本件譲渡資産は、もとは地目が田として登記され、農耕の用に供されていたものであるが、周囲の土地の宅地化に伴つて下水等が流入して池沼の状態になつたため、耕作不適地となつて昭和四〇年ころからは耕作が廃止され、その後昭和四三年六月二九日に昭和四〇年二月一五日を原因日付として池沼への地目変更登記がなされたうえ、前示のとおり昭和四三年一一月二二日訴外鈴木に対して右の状態で譲渡されたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、本件譲渡資産は、前示原告の譲渡にかかる昭和四三年一一月二二日当時、原告において耕作農地としてその事業の用に供されていたものとは到底認めることができない。

そうすると、本件譲渡資産は、租税特別措置法三八条の六第三項の適用を受けるべき譲渡資産としての要件を具備していないものというべきである。

のみならず、本件買換資産が、右条項の適用を受けるべき買換資産の要件を具備していることも、また認められない。すなわち、証人平林忠雄、同太田和雄の各証言によつて真正に成立したと認める乙第四号証、証人平林忠雄の証言によつて真正に成立したと認める乙第五号証の一ないし六、右各証言、並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件買換資産は、原告が肩書居住地から赴いて自ら耕作することはもとより、管理することも不可能であつたため、原告は、昭和四四年ころ、本件買換資産の所在する千葉県安房郡江見町に居住する訴外太田和雄に対して、右土地が荒廃することによつて近隣に迷惑がかかつたり、土地の境界が不分明となつたりしないよう管理を依頼したこと、ところが太田和雄は、繁忙のため自ら右土地を管理、耕作等することができなかつたので、右土地の前所有者らに、同趣旨でその管理を依頼し、同人らはその一部について耕作をして収穫を得たが、依頼の趣旨が右のとおりであつたところから、土地使用料その他の対価を太田和雄にはもちろん、原告に対しても何ら提供することもなく、かえつて収穫物はすべて耕作にあたつた前所有者らに帰属するものとして処理されてきたこと、また、本件買換資産中には右のように前所有者らによつて耕作がなされているものの他に、地盤が岩盤となつているため全く耕作ができない土地や原告に譲渡された後耕作が中止された土地もあり、それらの土地は雑草が繁茂するなどの状況のまま放置されていたこと、そして以上の状況は、原告が本件買換資産を取得した日から一年以上を経過した後もなお同様続いていたことが認められる。甲第一号証及び乙第三号証は、証人平林忠雄の証言に徴し右認定を覆えすに足りず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件買換資産は、取得の日から一年以内に原告の事業の用に供されたものとは到底認められないから、租税特別措置法三八条の六第三項の適用を受けるべき買換資産の要件を具備していないものというべきである。

三  以上によれば、被告のした本件課税処分に原告の主張するような違法はなく、従つて、本件課税処分は適法なものといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 内藤正久 裁判官 山下薫 裁判官 三輪和雄)

物件目録(一)

(一) 千葉県松戸市三村新田字屋敷耕地四〇番の一

池沼   一、〇二一・四八平方メートル(一反九歩)

(二) 同所四一番の一

池沼     七二三・九六平方メートル(七畝九歩)

裁判長 裁判官 内藤正久

裁判官 山下薫

裁判官 三輪和雄

物件目録(二)

(一) 千葉県安房郡江見町東真門字七反目一七〇の一

田    一、二八五・一平方メートル

(二) 同所一七八の一

田      八五五平方メートル

(三) 同所一七九の一

田    一、一五三平方メートル

(四) 同所一八二の三

田      五二平方メートル

(五) 同所一九一の三

田      三八〇・三平方メートル

(六) 同県同郡同町青木字白幡五四七

畑    九畝一六歩   外畦畔   一畝六歩

(七) 同所五四八

畑    三畝三歩

(八) 同所五四九

山林(現況畑)   一畝一一歩

(九) 同所五五〇

畑    六畝二〇歩

(地積はいずれも公簿による。)

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